戦略的なDX推進で「魅力ある建設業を創る」大手ゼネコン鹿島建設が業界のトランスフォーメーションに邁進 | プロコンサル

戦略的なDX推進で「魅力ある建設業を創る」大手ゼネコン鹿島建設が業界のトランスフォーメーションに邁進

デジタル推進室室長の真下英邦さん

スーパーゼネコンとも称される国内大手総合建設会社の鹿島建設株式会社(以下、鹿島建設)は、2021年5月に発表した中期経営計画において「デジタル」領域への投資計画を発表し、次世代建設生産システムや新分野のデジタル活用を戦略的に推進する。

デジタルを適用しにくい建設現場の実態と、担い手不足という業界特有の課題。日本の建設界を牽引する鹿島建設が目指す、建設業と担い手の新たな世界観とは。デジタル推進室室長の真下英邦さんに話を聞いた。(文:千葉郁美)

「顧客ニーズの多様化」と「担い手不足」は建設業界の課題

――御社は2021年4月に発表した中期経営計画においてDXを戦略的に実行していく姿勢を示され、より一層高い推進力で取り組まれていると思います。建設業がデジタルの活用を進める上で、どのような課題があったのでしょうか。

鹿島建設がDXの戦略的推進に動き出した背景には、2つの大きな課題があります。

まず1つはお客様の変化です。昨今、AIやIoTといったテクノロジーの発展はめざましく、第四次産業革命が始まっているとも言われています。顧客企業がDXを進めている中で、我々に求められる課題解決にも大きな変化が起きています。それは我々がやってきた事業活動だけでは賄いきれない形になり、対応していこうとするとこれまでとは違う新たなやり方を取らねばならない。そこにトランスフォーメーションの必要性が生まれています。

そしてもう1つは、将来の担い手不足という人材に関する業界の課題です。建設業は厳しい仕事のイメージがあるかと思いますが、それをDXによって変えていきたいと考えています。テクノロジーの導入によって安心・快適で、働く人たちが希望を持てる業界になる、そんな世界を作っていきたいのです。

こうした社会の課題や建設業の課題を踏まえ、「便利・快適・安心で、希望ある世界を創る」という鹿島DXビジョンを掲げ、変革に取り組んでいます。

DXを進めるには「組織横断」が重要。全社一丸で変革

――業界全体の大きな課題への挑戦ですね。戦略的なDXへの取り組みについて、御社では「業務DX」「建設DX」「事業DX」の3つに分けて実行されています。それぞれにどういった部分に注力されているのでしょうか。

「業務DX」は経営基盤整備の分野です。業務改革と高生産性マネジメントの実現やデジタル基盤環境整備、サイバーリスク対策の強化を課題として、デジタルによる仕事の変革を推進しています。

「建設DX」は我々の中核事業として特に注力している領域であり、課題も多くあります。デジタルツインを活用した仮想竣工・仮想運用による高生産性体質の強化や、顧客への最適プランの早期提供の実現、そしてデジタル建設生産システム構築による生産性向上とサプライチェーン最適化や、データによる建設ノウハウの継承と人の判断の支援というところの取り組みを強化しています。

そして「事業DX」は、顧客・社会に対する新たな価値の創出に挑戦する領域です。スマートビルの提供やスマートシティ・ソサエティの拡張、データやソフト、XaaSビジネスなどの新たな価値提供サービスの創出に向け、取り組みを強化しています。

3つのDXのうち、まずは基盤となる業務DX、そして中核事業の建設DXを推進していくフェーズを「DX1.0」として実行しています。その先で我々の培ったナレッジを生かし、顧客や社会に新たな価値を提供する事業DXを「DX2.0」と捉え、戦略的に推進しているところです。

また、この3つのDXを進めていく上で重要なのは、事業の垣根を越えて全社横断で実行することにあります。2021年1月に「デジタル推進室」が社長直轄部署として立ち上がり、事業間の連携やより一層の変革に向けて実行力を持って挑んでいます。


――「デジタル推進室」の設置は、DXを確実に実現していこうという御社の姿勢を象徴していますね。現在はどういった取り組みを進められているのでしょうか。

事業の中核である建設DXにおいては、次世代の建設生産システム「A4CSEL」(クワッドアクセル)の取組みを進めています。これは建設機械の自動運転を核としたシステムで、実際に秋田県の成瀬ダム堤体打設工事で導入され、日夜、複数の重機が連携し、自動運転で施工を行っています。

事業DXにおいては、スマートビル・スマートシティ分野への参画が成果を上げているところです。鹿島建設が代表企業を務める羽田みらい開発(株)と大田区が官民連携で開発しているスマートシティ「HANEDA INNOVACION CITY」は、複数の企業が介入して運営され、先端技術の実証フィールドとして新しい価値を創出していく、そんなまちづくりも進めています。

DXで「ひと本来の力を最大限引き出す」。建設を魅力的な仕事に

――デジタル化や自動化が建設業の新しい世界観を創り出しているのですね。一方で、建設業界において担い手不足が深刻化するという課題があります。

デジタルツインの活用によって施設運営の合理化や管理業務の効率化、省人化を実現したり、重機を遠隔で操作したりと、すでに多くのデジタル技術が現場に投入されています。デジタル化や自動化というと、どこか人がどんどん遠くなっていくように聞こえてしまいますが、私はむしろその逆で、人の本来の力を最大に活かすためにデジタル技術があると思っています。

建設現場というのは他の業種に比べて「人の感性」の重要度が非常に高いと感じています。デジタル化を進めることによってやるべきことが明確になっていき、本来必要とされているところにパワーを集中することができる。それは建設を担う人たちの働き方を大きく変えることにつながります。


――また、人材という観点ではIT人材の必要性も高まっているかと思います。社内のリテラシー向上やデジタル技能などの習得についてはいかがですか。

いま特に必要性を感じているのはAIによる分析やアプリ開発ができる人材です。昨今の世の中の変化スピードは非常に速くなってきています。これまでのように物事をかっちり固めてから進めるより、まずはスタートしてアップデートしながらどんどん前進していくというアジャイルのスタイルが大切になっています。

小さなものを作りどんどん改善していく、そういう文化を会社の中に作らなければいけないのです。そういった意味でもAIやアプリの開発といった技術を持つ人に一緒に働いてもらいたいというところです。


――御社の新たな風土を創る、DXにはそういった側面があるのですね。

そもそもデジタルは手段であり、あくまでも重要なのはトランスフォーメーションをすることです。会社をトランスフォーメーションするには、どんどんチャレンジして新しいものを生み出していくことが重要であると考えています。

社員も新たな挑戦ができるように、知識や技術を身につける場を今後もっと増やしていきたいですし、社外のさまざまな産業で経験や知識を持つ方々と協働して新たな価値を生み出していく、そういったことを積極的に実施していきたいと考えています。

鹿島建設のDXは始まったばかりで、我々はまだスタート地点にいると認識しています。多くの人が入職したくなるような魅力的な働き方がある、そんな建設業を創造していきたいですね。